Lesson4
その日の放課後、ナマエは学校の帰りに晩御飯の材料を買いに寄ろうと歩いていると話し声が聞こえた。
「へへ、ボス・・・コレが例のブツです」
「ほぅ・・・効果は?」
「従来の倍です」
「すぐにキメますか?」
「ああ。帰ったら試しに使ってみよう」
ナマエは気にせず角を曲がると、そこにはリヴァイを取り囲んだ若い男女の姿が。
しかし男が手に持っているアタッシュケースの中には透明な袋の山で、白い粉。
そしてその白い粉の袋を、リヴァイは品定めしている最中だった。
「清掃員、さん・・・?」
「・・・!ナマエ先生」
ナマエはリヴァイが持っているブツに指を指すと
「あの、それ・・・何ですか?」
「お姉さん、これはですね!最新のクレンザーです!」
「おひとついかかですか!!」
ミニスカの女性と老け顔の男性が引きつった顔で粉の袋を持ってジリジリと迫ると、ナマエは顔を青くさせて
「け、結構です!失礼いたします!!」
ナマエは脱兎の如く逃げ出した。
取り残された5人の空間は沈黙になる、がリヴァイの顔は険しい。
「オルオ! 紛らわしい渡し方するから!」
「だ、だってボスに昔を思い出して欲しくて・・・」
「ボス!あの人先生って言ってましたけど」
「ああ。俺が働いてるスクールの先生だ・・・」
完全に勘違いされている。珍しく焦っているリヴァイを見た女性・・・ペトラは女の勘が働いた。
「ボス、もしかして・・・!す、すぐに誤解を解くべきです!」
「ああ・・・お前ら、ナマエ先生の家を特定しろ」
そう言うと4人は了解!と頷くと走ってナマエの姿を探したのであった。
***
・・・次の日の土曜日。
ナマエはベッドからむくりと起き上がるがその顔は晴れない。
昨日は見てはいけないものを見てしまい、寝つきが悪かったのだ。
「今日が土曜日で良かった・・・」
眠りが浅く、正直ずっと横になっていたいがせっかくの休みだ。ベッドから降りて着替えるとハァとため息をつく。
「月曜日から、リヴァイさんにどんな顔すれば・・・」
時刻は午前9時・・・気晴らしに買い物か家の掃除でもしようか、と思った瞬間
ピンポーン
部屋のインターホンが鳴った。
「?・・・誰だろう」
このパラディ島に知り合いは居ないし宅配も頼んだ記憶が無い。ナマエは恐る恐る覗き穴を見ると「ひっ」と声が出た。
ドアの向こうに居るのは、リヴァイだからだ。
居留守でも使おうか、と思ったがリヴァイと覗き穴越しに目が合ってしまった。あちらからは見えないはずなのに、思わず固まっていると
「・・・ナマエ先生、居るんだろ」
「は、はい・・・」
「話がある。開けて欲しい。」
「ききき昨日の件でしたら!誰にも言いません!絶対に!」
「その件でだ。・・・頼む」
覗き穴越しのリヴァイの顔はとても真剣だ。
その顔を見たナマエはゆっくりとドアの施錠を解除した。
リヴァイの服装は白のカットソーに黒のスキニーというシンプルな服装で、その手には紙袋が下げられていた。
「・・・どうぞ」
「邪魔する」
部屋に招き入れるとリヴァイは紙袋をナマエに差し出した。昨日リヴァイの元部下・・・ペトラに「家に行く時はお菓子を買っていってください!女性は甘いものには弱いですから!」という助言の元だ。
ナマエはそれを受け取ると首を傾げる。
「昨日は、怖がらせて悪かった」
「は、はい・・・ビックリしました。」
リヴァイが薬物に手を出しているなんて・・・しかし、海外映画ではよく薬物をキメているシーンがあるのでリヴァイが葉っぱや粉などのひとつやふたつキメていてもおかしくないのかもしれない。
まだ誤解は解けていないな、とリヴァイは目を細めるとポケットから例のクレンザーの袋を取り出した。
「えっ!?ここでキメないでください!」
「あぁ? これは本当にクレンザーだ。それを証明しに来たんだ、台所を借りるぞ」
「ええぇ!?」
リヴァイはナマエの後ろにあるキッチンに行き眉を寄せると
「綺麗にはしてあるが・・・まだ甘いな」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。」
そう言って自前のゴム手袋を装着すると袋を開けてシンク周りに振りかけるとスポンジで擦り始めた。
すると、くすんでいたステンレスのシンクがみるみるうちに輝き、新品同様のクオリティにまで綺麗になってしまった。
「す、すごい・・・!」
「悪くねぇ出来だ。 コンロ周りもやってやろう」
「お願いします!」
「換気扇が甘いな。チッ、仕方ねぇ」
「ありがとうございます! あの、清掃員さ・・・リヴァイさんっ」
初めて名前を呼ばれ、背中を向けていたリヴァイは一瞬息が止まったが何も言わずに振り向くと
「その、疑ってすみませんでした」
「気にするな。 あれから元部下にはちゃんと注意しておいた」
「元部下というのは・・・」
「まあ、昔色々とな」
一緒にいたミニスカの女性も気になる・・・ナマエはワンピースの裾をいじりながら
「あの女の子も、ですか?」
「ペトラか? ああ。もちろんだ」
「そっか・・・」
とたんスッと胸が軽くなったナマエはリヴァイに笑いかけると
「それ終わったら一緒にお菓子食べましょ!」
「・・・ああ」
リヴァイも僅かに口元に笑みを浮かべると、掃除の続きを再開させた。
・・・そして次の日、リヴァイから受け取ったクレンザーをルンルン気分で抱きしめて歩いているとエレン、アルミン、ミカサがそれを見て叫んで逃げていったため、ナマエは首を傾げたのだった。